札幌ススキノ複合ビル爆発事故(2025年5月)の概要と解体業者の視点
事故の概要(報道ベースの確認)
2025年5月、札幌市中央区南4条西2丁目に位置するススキノの複合ビル内のジンギスカン店で爆発事故が発生しました。報道によると、火災現象は確認されなかったものの、爆発により建物のガラスが広範囲に飛び散り、複数の負傷者が出ました。この「火災を伴わない爆発」という点が、事故原因を特定する上で最も重要な手掛かりとなります。

事故の推定原因:ガス漏れ・爆発の可能性
解体業者として、建物の構造や利用状況を考慮すると、火災を伴わない大規模な爆発の主な原因として、ガス爆発の可能性が最も高いと推定されます。
1. プロパンガス(LPガス)または都市ガスの漏洩
飲食店であるジンギスカン店では、調理や暖房のためにガスを使用しています。
- LPガス(プロパンガス): 空気より重いため、漏洩すると床面などの低い場所に滞留しやすい特性があります。特に、地下や密閉空間では危険性が高まります。
- 都市ガス(主成分はメタン): 空気より軽いため、天井付近に滞留しやすいですが、換気不足の状況下では爆発性混合気体を形成します。
今回の事故では、爆発の規模や周囲への影響から、漏洩したガスが室内に充満し、引火源(電気スイッチの操作、火気、静電気など)によって一気に爆発した**「爆燃(デフラグレーション)」**が起きた可能性が高いです。特に、爆発時に火災が発生しなかったか、小規模であった場合、ガスが先に燃焼したことを示唆します。
2. 滞留と引火のメカニズム
ガス漏れが継続し、室内のガス濃度が爆発下限濃度(LEL)から爆発上限濃度(UEL)の間(この範囲を爆発範囲と呼びます)に達した状態で、わずかな火花や熱源に触れると爆発します。複合ビルの場合、他の店舗との間の換気状況や配管の複雑さから、漏洩箇所の特定が遅れるリスクも高まります。
爆発・火災リスク管理の重要性(解体業者の視点から)
この事故は、解体工事を専門とする我々にとっても、建物のリスク管理の重要性を改めて認識させるものです。
1. ライフラインの確実な遮断
解体工事の着手前には、ガス、電気、水道などの**ライフライン(インフラ)の確実な遮断(元栓閉鎖・供給停止)**が最も重要な初期作業です。この事故は解体工事中ではないものの、建物の利用が停止される際や、テナントの入れ替わり時などには、ガスの元栓が完全に閉鎖されているか、配管にガスが残存していないかを厳重に確認するプロセスが不可欠です。
2. 可燃性ガス・液体の事前調査と除去
飲食店や工業施設だった建物を解体する際、床下や配管に残留している可燃性ガス、油、溶剤は常に爆発・火災の原因となります。解体業者は、工事着手前に必ず:
- 残留ガス検知器を用いた徹底的なガス濃度の測定。
- 残存する油や廃液の適切な除去と処分。
- 閉鎖された空間(地下ピット、タンクなど)の不活性化(窒素ガス充填など)または強制換気。
これらの作業を怠ると、解体中の重機の火花や摩擦熱、静電気、さらには作業員による喫煙や電気工具の使用といった、予期せぬ引火源によって大事故につながります。
事故が示唆する建物の安全性と解体工事への教訓
1. 複合ビルの特殊なリスク構造
複合ビルは、単一用途の建物に比べてリスク管理が複雑です。
- 複雑な配管・配線: 複数のテナントのガス管、電気配線が複雑に絡み合っており、一箇所での漏れや故障が全体に波及しやすい。
- テナントの入れ替わり(居抜き): テナントが入れ替わる際に、古い配管が適切に処理されず放置されるケースがあり、これが将来的な漏洩源や建物の不具合の原因となることがあります。
- 換気対策: 飲食店は換気設備が必須ですが、排気ダクト内の油汚れ(ダクト火災のリスク)や、ガス漏洩時の適切な排出経路の確保が重要です。
2. 解体工事における具体的な安全対策(4原則)
もしこのビルが解体されることになった場合、解体業者は以下の4原則に基づき、通常のビル解体よりも厳重な安全管理を実施します。
① ガス・危険物・ライフラインの完全除去・遮断
- ガスパージ: ガス管内の残留ガスを不活性ガス(窒素)で完全に置換する「パージ」作業を必須とする。
- 電気の完全遮断・絶縁: 分電盤だけでなく、建物への引込線を完全に遮断し、絶縁状態を確認する。
② 危険箇所の特定と監視(ガス検知・モニタリング)
- 常時ガス検知: 解体作業中、特にガス配管や厨房設備周辺の解体時、地下階、密閉空間では、連続的なガス検知モニタリングを実施する。
- ヒアリングと図面照合: 過去のテナント情報や設備の増改築履歴を徹底的に調査し、図面にはない隠れた配管や貯蔵物がないかを確認する。
③ 火気使用の制限と消火体制の強化
- 原則火気厳禁: 解体作業中、ガス切断機(溶断)などの火気を使用する場合は、周囲の可燃物を取り除き、ガス検知をクリアした区画でのみ行う。
- 消火準備: 溶断作業を行う際は、必ず消火器(粉末・泡)を作業箇所に複数配置し、消火用水の準備も徹底する。
④ 作業員の教育と緊急時対応訓練
- 爆発・火災リスクが高い現場では、作業員に対し、ガス漏洩時の臭気や体調変化の異常に気付いた際の即時退避、報告手順、初期消火活動についての特別な安全教育とシミュレーション訓練を定期的に実施する。
3. 法的責任と事後対応
この事故の結果、建物の所有者や管理会社、そして最終的には施工業者(設計・施工・改修・点検業者)に対して、安全管理体制の不備や過失の有無が問われることになります。解体業者も、解体工事を請け負う際には、事故物件の解体として、通常の解体よりも詳細な作業計画書の作成と、行政への特定建設作業届などに、特記事項を盛り込むことが求められます。
まとめ
ススキノ複合ビル爆発事故は、ガスの残留と換気不足が引き起こす都市型建物における潜在的なリスクを鮮明に示しました。解体業者としては、この事故を教訓として、ガスや危険物の残留リスクを過小評価せず、事前の徹底した調査、厳格なライフラインの遮断、そして現場での継続的なガス検知・監視を、すべての建物解体における最優先事項と位置づけ、安全管理体制を一層強化していく必要があります。
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